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「バギオ サヨテタップス物語 2」   加藤 卓 著

 前回のモンテンルパ訪問から半年が過ぎました。妹は再び遠く、兄のいるモンテンルパへ行かねばならなくなりました。兄に恩赦の話しが持ち上がったからです。フィリピンでは恩赦によって釈放される受刑者も多いと聞きます。ただし、手続き等で、うやむやになってしまう可能性もあるとか、そうならないよう頑張ってやらなければなりません。

 兄がわけのわからない罪で捕まった時、母と妹は兄を助けようとしました。フィリピンにも当然、弁護士制度はあります。弁護士に助けを求めました。でも担当の弁護士に払うお金がありませんでした。母は弁護士の家で、家政婦として働くことでお金の代わりとしました。妹は弁護士の庭を掃除することで兄を助けようとしました。しかし、結果は無期懲役刑でした。

 しばらくして母が亡くなりました。母はどのような気持ちで旅立ったのでしょうか。幼い妹と、刑に服す兄を残して。

 妹が再びモンテンルパ刑務所を訪問すると聞いて、受刑者仲間の、あの死刑囚の母から連絡が入りました。今度は、是非、私も一緒に連れていってくれという話しでした。その為には家財を売ってもお金を作るとのことでした。妹には嫌も応もありません。女二人で旅をすることになりました。今回のおみやげもやっぱり野菜です。サヨテやサヨテタップス、それにニンジンなど2袋たっぷりあります。

 バギオ発深夜バスは、二人の思いを乗せて出発しました。

 長旅の末、刑務所に着きました。手続きの後、二人は所内に入りました。無期懲役の兄が待っていました。妹は兄にかけより抱き合いました。そして死刑囚の息子も待っていました。母が近づきました。二人は言葉になりませんでした。そのまま抱き合いました。周りにいた囚人たちも、二人の境遇が分かったのでしょう、黙っています。
 二人はいつまでも抱き合っていました。


 
 
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by janlbaguio | 2007-12-05 22:57 | 会員 エッセイ・コーナー

「バギオ サヨテ・タップス物語」 その1  加藤 卓 著

 サヨテとは、フィリピンの庶民的な食べ物で、味は、甘くないウリのようです。温かいスープなどに入っていると味が染み込み、それなりに美味しい食べ物です。山間部の斜面を利用して栽培されていますが、日持ちが良いため、野菜などが作れない場所へのおみやげとしても重宝されています。

 蔓性の植物ですが、雨期になるとどんどんわき芽が出ます。そのわき芽も食べます。タップスと呼びます。栄養的にも良い食べ物ですが、しょせんわき芽ですから安いです。
 サヨテが作られるバギオ市やベンゲット州の山間部には、第2次世界大戦で財宝を隠したとされる山下将軍の伝説が今でも残っています。「山下将軍の地図かあるのだが、読んで欲しい」などと言って近づいて来る人が必ずいますが、かなり怪しい。実に怪しい。

その山下将軍はマニラの南にあるモンテンルパ刑務所で処刑されました。大戦後は日本人捕虜収容所になっていたところです。今では、フィリピンの長期刑刑務所になっています。
そのモンテンルパ刑務所に無期懲役刑の兄を持つ妹がいます。兄は服役してすでに12年になりますが、妹は久しぶりに、兄に会いに行くことにしました。しかしルソン島の北に位置するバギオ市からマニラ市南のモンテンルパまで、長距離バスと中距離バス、ジプニーとトライシクルを乗り継いでの長旅です。おいそれと会いに行けるわけでもなく、費用もかかり、多額の借金をして行くことになりました。

妹がモンテンルパ刑務所の兄に会いに行くことが知れたのでしょうか、深夜バスの乗り場に、人が集まって来ました。モンテンルパ刑務所に友人を持つ人、知人を持つ人、息子を持つ人などです。皆、それぞれの友人や知人に託す手紙や品物などを妹に預けました。
その人たちの間に、一人の老婦人がいました。モンテンルパ刑務所に死刑囚の息子がいると言いました。老婦人は両腕に一抱えのサヨテ・タップスを持っていました。老婦人は目に涙を浮かべながら「私も息子に会いたいが、貧しくて行くことは出来ない。どうかこのタップスとお金を息子に渡して欲しい」と言って、一抱えのサヨテ・タップスと、150ペソほどの現金を妹に渡しました。

150ペソは日本円にして約380円ほどでしょうか。彼女にとって、今あるだけのお金でしょう。
妹は老母の境遇がわかりました。サヨテ・タップスとお金を渡されても、言葉が出ませんでした。ただ頭を、コクンコクンとうなずくだけでした。
未だ司法制度の未整備なこの国では、えん罪などがあり得ます。彼が本当に犯罪を起こしたかどうかはわかりませんが、今は大統領令によって死刑の執行が一時的に止められているだけです。いつ何時、執行されるか分かりません。老母はきっとその前に一目息子に会いたいのでしょうが、貧しさ故にそれもかないません。弁護士を雇う余裕などなく、唯々諾々と運命を受け入れるしかありません。

バギオ発の深夜バスは、様々な人の、様々な思いを乗せて出発しました。
モンテンルパ刑務所への持ち込みは比較的緩やかなようです。その中で、頼めば煮炊きも出来るそうです。
老母は、働いている農場で、息子の無実を信じつつタップスを摘みました。
彼が刑務所の中で食べたサヨテ・タップスは、遠くふるさとに住む、なつかしい母の味がしたでしょうか。

ー続くー
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by janlbaguio | 2007-09-16 21:57 | 会員 エッセイ・コーナー